肥満が体にもたらす影響はさまざまですが、あまり知られていないのが不妊に関することです。なかなか子供が授からないという人の場合、不妊の原因として肥満や無理なダイエットが関わっている可能性があります。
肥満は、妊娠といった体の機能に、どのような影響を及ぼすのでしょうか。
アディポネクチンとは、脂肪細胞から分泌されるタンパク質です。「超善玉ホルモン」とも呼ばれるこのタンパク質は、動脈硬化や糖尿病、抗がん、老化防止とさまざまな働きがあります。
また、最近の研究では妊娠する上で、このアディポネクチンは重要な働きをするとわかっており、妊娠をする上で不可欠な要素といえます。
このアディポネクチンは脂肪細胞から分泌されるので、脂肪を増やせば分泌される量も多くなるのでは、と考える人もいるでしょう。しかし、実際は全くの逆であり、脂質を溜めていびつに膨らんだ脂肪細胞は、アディポネクチンを分泌しなくなってしまうので、肥満によって不妊になりやすくなるのです。
アディポネクチンが減少すると、排卵障害や卵子の成長が阻害されるといったことが起こりやすくなります。脂肪細胞の存在自体は妊娠には必要ですが、細胞の働きを阻害する肥満は不妊をもたらしてしまうのです。
肥満になると、不妊をもたらす症状の1つ、「多嚢胞性卵巣症候群」が現れやすくなります。この症状は、卵巣組織にたくさんの卵胞ができることで、卵子の排出ができなくなる排卵障害です。ひどい場合は全く排卵がされない無月経症の原因ともなるので、不妊に悩む人は注意が必要です。
この多嚢胞性卵巣症候群は、インスリンの分泌量が多いと発症しやすくなります。肥満の人の多くは高血糖であり、一般の人よりもインスリンが多く分泌されます。この影響により、多嚢胞性卵巣症候群が発症しやすくなるのです。
不妊治療では、ホルモン剤の投与などを行いますが、体脂肪率が高い人ですとこのホルモン剤の効果も現れにくくなります。不妊が起きやすい上、治療による効果も抑制してしまうため、肥満がどれだけ不妊に悪影響を与えているかがわかるでしょう。
過度な肥満は不妊をもたらしますが、逆に痩せすぎの体型も問題となります。
無理なダイエットを行って体重を減らすと、栄養不足によるホルモン量の低下や月経異常、新陳代謝が下がることで妊娠がしづらくなるなど、さまざまな問題が発生するのです。
前述したように、多嚢胞性卵巣症候群はインスリンの分泌が大きな要因となっています。そのため、普段の食生活から血糖値を上げにくい食べ物を摂取することで、この症状が現れることを効果的に防げるでしょう。
ごぼう、にんじん以外の野菜、枝豆、キノコ類、海藻類、いちご、アボカド
牛乳、卵、プレーンヨーグルト
玄米、ライ麦、雑穀米、そば
主食を白いご飯から玄米やライ麦パンなどに変え、野菜やキノコ類、海藻類などをメインにした献立をたてるとよいでしょう。
食事に気をつけるほか、食べ方自体も気をつけることで、血糖値の上昇を抑えることができるでしょう。以下に挙げるのはその一例です。
たくさんの食べ物を1度に食べると、血糖値が大幅に上昇します。食べる量に気をつけながら、1日3食しっかりと食べましょう。
野菜に含まれている食物繊維は、血糖値の上昇を抑える効果があります。普段の食生活でも積極的に摂取しましょう。
よく噛まずにごはんを食べると、エネルギーが急激に体内に取り込まれ、膵臓がインスリンを大量に分泌します。よく噛んで食べることで、エネルギーの吸収が穏やかになり、インスリンの分泌量を減らすことができるのです。
朝や昼間とは違い、家で過ごすことが多い夕方からはエネルギーの消費も少ないため、食べる量を控えめにすることが重要です。また、食事と食事の感覚も空けすぎないよう注意しましょう。
お腹がすいている時に肉類を食べると、血糖値が大幅に上昇してしまいます。先に食物繊維の含んだ野菜を食べることで、こうした血糖値の上昇を抑えられます。
不妊の問題は女性側だけでなく、男性側にも問題がある場合も考えられます。男性が肥満になると、精子の奇形や分泌量の減少が現れるようになるため、妊娠がしづらくなるのです。
他にも、肥満によってEDなどの症状が現れることも、不妊の原因となります。夫が肥満である場合、夫にもダイエットを行わせる必要があるでしょう。
脂肪細胞には「エストロン」と呼ばれる、卵胞ホルモンを分泌する働きがあります。特にエストロンは、妊娠をしやすくするエストラジオールと呼ばれる女性ホルモンを、補佐する働きがあるのです。
過度なダイエットにより体脂肪率を急激に減らすと、その分このエストロンの量も減ってしまい、不妊の原因となるのです。
急激に体重を落とすと、体は無意識のうちに「飢餓状態」へと移行します。
私達の体は元々飢餓に耐えられるよう、さまざまな機能が備わっているものです。飢餓状態になると、私達の体は生命維持のため、子供を生むための準備を一旦ストップしてしまうのです。
栄養不足の状態では母子ともに危険にさらされると判断し、月経を止めてしまうので、急激に痩せると不妊になりやすいのです。
すぐに体型を改善しようとして無理なダイエットを行うと、体へ大きな影響が与えられてしまいます。ダイエットを行うなら、体に負担を与えないよう、適度な運動と食事量を心がけ、体重を急激に減らさないようにしましょう。
体重を劇的に減らさずに痩せるには、「1日100kcalを減らす」ことを目標にするとよいでしょう。これは毎日100kcalずつ減らしていくというわけではなく、普段の生活で100kcalだけ減らすように生活する方法です。
換算するとおよそクッキー1枚分。普段の生活からその分を減らす場合、普段のちょっとした食習慣の改善やルール作りをすることで達成できます。
参照:肥満も不妊の原因に!不妊治療専門医がダイエット法を伝授(1)無意識に「1日100kcal」を減らしましょう(マイナビニュース)
ご飯を食べる量を腹八分目に抑える
1度に食べる総量を考える
食べる食事の半分を野菜、半分を炭水化物と肉類にするメニューを作る
お菓子を家に置かないようにする
余計な量を盛らないように、食器の大きさを小さくする
肥満状態で月経異常が見られるという人であれば、不妊治療のために体重の5~10%を減量させる必要があります。もちろん急激に痩せるとさまざまな問題が生じるので、ゆっくりと時間をかけて減量をしていくとよいでしょう。目安となるのは2~6ヶ月の間です。
およそ10%減量できた場合、肥満による月経異常を起こしていた人の約8割が改善できたというデータもあるため、減量は高い不妊治療効果があるといえるでしょう。
参照:肥満も不妊の原因に!不妊治療専門医がダイエット法を伝授(2)やせる行動を「習慣」にするコツ、教えます(マイナビニュース)
多くの女性に心当たりがあるでしょうが、ダイエットは簡単に成功させることはできません。どうしても自分で対処ができない場合、肥満外来がある専門のクリニックで治療を受けましょう。
肥満を改善できる場所は肥満外来のほか、美容外科やエステサロンなども存在します。そのため、どこで治療を受ければいいかわからない人もいるでしょう。
不妊治療を行う場合、体への負担は極力避けなければなりません。そのため、不妊が目的ならば肥満外来での治療を選ぶとよいでしょう。